KUROTANI WASHI GUIDE

KUROTANI WASHI GUIDE

Prologue

Chapter1 文化は、この土地から始まった

Chapter2 傘版が育まれた理由

Chapter3 太陽が、一枚の和紙を仕上げる

Chapter4 変わり続けたから、受け継がれた

Chapter5 文化を支えたのは、一人の職人ではなかった

Chapter6 和紙は、畑から始まる

Chapter7 今も続く黒谷和紙の挑戦

Chapter8 文化は、使われることで未来へ続く

Epilogue

Prologue

🎧 音声ガイド

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一枚の和紙は、どこから生まれるのでしょうか

楮(こうぞ)でしょうか 清らかな水でしょうか 職人の技でしょうか

そのどれも正しい答えです

しかし、黒谷和紙の長い歴史を辿ると、それだけでは説明できませんでした

この土地は、米づくりに適した場所ではありませんでした

人々は自然と向き合い、楮を育て、紙を漉き、その紙で暮らしを築きました

時代が変われば、人々が必要とする紙も変わります

傘紙から値札紙へ 帳紙から繭袋へ 軍用紙から民芸紙へ そして、新しい時代の用途へ

変わり続けたのは、作る紙でした

変わらなかったのは、この土地で、人に必要とされるものをつくり続けようとする営みでした

土地は人を育み、 人は文化を育み、 文化は、時代に適応しながら未来へ受け継がれていく

KUROTANI WASHI GUIDEは、和紙の製法を紹介するガイドではありません

黒谷和紙が、なぜ長いあいだ生き続けることができたのか

その理由を、この土地を歩き、この文化に触れながら辿っていく旅の記録です

🇬🇧 Prologue
🇫🇷 Prologue

Chapter 1

文化は、この土地から始まった

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黒谷和紙の歴史は、およそ800年前に始まったと伝えられています

しかし、その始まりは「和紙を作りたかったから」ではありませんでした

黒谷は、四方を山々に囲まれた谷あいの集落です

豊かな自然に恵まれている一方で、広い田畑をつくることは難しく、

米づくりだけで暮らしを支えるには厳しい環境でした

その土地で人々が見つけたのが、「楮(こうぞ)」という植物でした

楮はこの土地によく育ち、人々はその繊維を使って紙を漉く技術を受け継いでいきます

やがて和紙は、暮らしを支える大切な産業となり、

ときには年貢として納められるほど、この地域に欠かせない存在となりました

つまり、黒谷和紙は工芸品として生まれたのではありません

人々が、この土地で生きていくために生まれた生活文化だったのです

この物語は、一枚の紙の歴史ではありません

土地とともに暮らした人々が、自然を受け入れ、

その環境の中から生み出した知恵の歴史でもあります

🇬🇧 Culture began right here.
🇫🇷 C'est ici que la culture a vu le jour

Chapter 2

傘版が育まれた理由

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黒谷の集落は、両側を山々に囲まれた谷あいにあります

古くから黒谷では、「傘判(かさばん)」と呼ばれる、

およそ48×40センチメートルの大きさの和紙が漉かれてきました

この寸法は偶然ではありません

当時、多く作られていた番傘の中心から縁までの長さも、およそ48センチメートル

黒谷で漉かれた和紙は、この大きさに合わせることで、

無駄なく傘紙として使うことができました

紙を漉いた後は、一枚一枚を板に貼り、太陽の光でゆっくりと乾かします

しかし、谷地形である黒谷では、広い干し場を確保することができませんでした

限られた土地の中で、この傘判を効率よく乾燥させるために、

板干場もまた、この土地の条件に合わせて工夫されていきます

つまり、黒谷の地形が紙の規格を生んだのではなく、

定着した「傘判」という規格を、この土地が受け止め、育ててきたのです

一枚の和紙の大きさにも、この土地で生きた人々の知恵と工夫が刻まれています

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🇬🇧 It was the land that determined the size of the paper
🇫🇷 C'est le terrain qui a déterminé la taille du papier

Chapter 3

太陽が、一枚の和紙を仕上げる

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和紙は、漉き上げた瞬間に完成するわけではありません

最後の品質を決める大切な工程が、「乾燥」です

黒谷には、古くから「板干場(いたほしば)」と呼ばれる和紙の干し場があります

周囲を山々に囲まれた谷あいでありながら、

この場所には朝8時頃から夕方4時頃まで太陽の光が差し込みます

職人は、漉き上げた和紙を一枚ずつ板に貼り、太陽と風の力を借りながら、

ゆっくりと乾かしていきます

機械で一気に乾燥させるのではなく、自然の力で時間をかけて乾かすことで、

和紙には適度な水分が残り、丈夫でしなやかな風合いが生まれます

ここでも、品質をつくっているのは人の技術だけではありません

太陽の光

谷を吹き抜ける風

山々がつくる環境

黒谷の自然そのものが、一枚の和紙を仕上げる職人の一人なのです

和紙づくりとは、人が自然に勝つ技術ではありません

自然の力を理解し、その恵みを最大限に活かすことで育まれてきた文化なのです

🇬🇧 The sun puts the finishing touches to a sheet of washi paper
🇫🇷 Le soleil donne sa touche finale à une feuille de washi

Chapter 4

変わり続けたから、受け継がれた

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「伝統」と聞くと、多くの人は、昔と同じものを作り続けることを思い浮かべるかもしれません

しかし、黒谷和紙の歴史は少し違います

時代が変われば、人々の暮らしも変わります

暮らしが変われば、必要とされる紙も変わります

黒谷の職人たちは、その変化に応え続けてきました

番傘に使われた傘紙

日々の暮らしを支えた帳紙

京呉服用の値札紙

養蚕業の発展を支えた繭袋

戦時中に必要とされた軍用紙

工業製品として使われたサンドペーパー台紙

民芸運動の中で評価された民芸紙

そして、現代の暮らしや建築、デザインへと広がる新しい和紙

作られる和紙は、その時代ごとに姿を変えてきました

しかし、変わらなかったものがあります

それは、「人に必要とされる紙をつくる」という黒谷の姿勢です

文化とは、形を変えないことではありません

時代が求めるものを受け入れながら、本質を受け継いでいくこと

黒谷和紙の800年は、その積み重ねによって築かれてきました

だからこそ、黒谷和紙は過去の文化ではなく

今もなお、新しい時代の中で、新しい役割を探し続けている文化なのです

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🇬🇧 It was passed down because it kept changing
🇫🇷 C'est parce qu'elle n'a cessé d'évoluer qu'elle a été transmise

Chapter 5

文化を支えたのは、一人の職人ではなかった

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美しい和紙を見ると、多くの人は一人の職人が

すべてを作り上げているように思うかもしれません

しかし、黒谷和紙には、もう一つ大切な存在があります

それが、「協同組合」です

組合は、市場から求められる和紙の大きさや厚み、用途などの注文を受けます

その内容に応じて、それぞれの職人へ仕事を依頼し、

完成した和紙を買い取り、販売までを担います

つまり、職人は紙漉きというものづくりに専念し、

組合は市場との接点を担うという役割分担が築かれてきました

この仕組みは、単なる販売組織ではありません

職人一人ひとりの技術を守りながら、地域全体で品質を維持し、

黒谷和紙という文化を未来へつないでいくための共同体でもあります

さらに、「黒谷和紙」と名乗るためには条件があります

黒谷、またはその周辺で漉かれた和紙であること

そして、黒谷和紙協同組合を通して販売されること

この仕組みによって、品質と信頼、そして「黒谷和紙」という名前は守られてきました

文化は、一人では受け継ぐことができません

職人が技術を守り、組合が地域をまとめ、市場とつながる

その積み重ねが、黒谷和紙を800年支え続けてきた大きな力なのです

🇬🇧 It was not a single craftsman who sustained that culture
🇫🇷 Ce n'est pas un artisan seul qui a soutenu la culture

Chapter 6

和紙は、畑から始まる

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美しい一枚の和紙を見ると、多くの人は紙漉きの技術に目を向けます

しかし、その物語は工房では始まりません

和紙づくりは、一つの畑から始まります

その畑で育つのが、「楮(こうぞ)」です

黒谷では、毎年11月に楮を刈り取り、冬のあいだに皮を処理し、紙を漉きます

春になると新しい芽が顔を出し、夏には約2メートルまで成長し、

秋には約3メートルへと育ちます

そして再び収穫を迎えます

この一年の営みが、そのまま和紙づくりの一年でもあります

現在、日本で使われる楮の多くは海外から輸入されています

一方で黒谷では、地域の人々が綾部産楮を増やそうという取り組みを続けています

楮栽培推進協議会

あやべ楮の会

そして、地域の工房

それぞれが立場は違っても、

「この土地で育った楮から和紙をつくりたい」という思いを共有しています

和紙は、紙漉きの技術だけでは生まれません

土を耕し、楮を育て、収穫し、その繊維を一本一本丁寧に整える

自然とともに過ごす一年があって、初めて一枚の和紙が生まれます

だから黒谷和紙を未来へ受け継ぐということは、技術を守ることだけではありません

この土地で楮を育てる風景を、未来へ受け継いでいくことでもあるのです

🇬🇧 Washi begins in the fields
🇫🇷 Le papier washi trouve son origine dans les champs

Chapter 7

今も続く、黒谷和紙の挑戦

🎧 音声ガイド

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文化は、未来へ受け継がれていきます

長い歴史を持つ黒谷和紙

その歴史は、過去のものではありません

今もなお、新しい挑戦が続いています

2028年には、新しい工房の完成が予定されています

現在も和紙づくりが行われている工房を建て替えながら、

釜や漉き舟など、長年使われてきた道具はそのまま残されます

それは、博物館として展示するためではありません

これからも現役の道具として使い続けるためです

受け継がれるのは、建物ではなく、「ものづくりを続ける営み」なのです

また、新たな取り組みとして、5日間にわたる体験プログラムも始まろうとしています

参加者は楮畑に入り、原料を処理し、紙を漉き、一枚の和紙が完成するまでを体験します

その目的は、和紙づくりを体験することだけではありません

黒谷和紙を理解し、暮らしの中で使い続ける人を育てること

文化は、知るだけでは受け継がれません

実際に触れ、使い、その価値を誰かへ伝える人がいて初めて、次の世代へとつながっていきます

さらに建築や空間デザインなど、

新しい分野へ和紙の可能性を広げる取り組みも続いています

新しい用途を切り拓きながらも、

その和紙は協同組合を通して地域の仕組みの中で活かされています。

挑戦することと、受け継ぐこと

一見すると相反するように思えるこの二つは、黒谷では決して別のものではありません

800年という時間は、「変わらなかった歴史」ではなく、「変わり続けてきた歴史」

その歩みは、今この瞬間も、未来へ向かって続いています

🇬🇧 The Ongoing Challenge of Kurotani Washi
🇫🇷 Le défi du papier washi de Kurotani, qui se poursuit encore aujourd’hui

Chapter 8

文化は、使われることで未来へ続く

🎧 音声ガイド

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黒谷和紙を訪ね歩いてきて、一つのことが見えてきました

文化は、変わらないから受け継がれるのではありません

その時代に必要とされることで、未来へ受け継がれていくのです

黒谷和紙は、土地から生まれました

自然に育まれ、

人々の暮らしを支え、

時代が求める製品へ姿を変え、

新しい技術を受け入れ、

共同体の力によって守られてきました

黒谷和紙の誕生からこれまでの時間は、過去の積み重ねではありません

その時代ごとに、新しい役割を見つけ続けてきた時間です

そして、その歩みは今も続いています

建築に使われる和紙

空間を彩る和紙

芸術作品としての和紙

新しいものづくりに挑戦する人々

黒谷和紙は、今もなお新しい可能性を広げ続けています

文化は、博物館の中だけでは生き続けることはできません

実際に使われ

暮らしの中に取り入れられ

誰かに伝えられることで

初めて次の世代へと受け継がれていきます

KUROTANI WASHI GUIDEは、和紙の歴史を紹介するためだけに制作したものではありません

黒谷和紙という文化と、新たな出会いを生み出すためのガイドです

もし、このGUIDEを通して黒谷和紙に興味を持っていただけたなら、

ぜひ、この土地を訪れてください

職人の手仕事に触れてください

一枚の和紙を手に取ってください

そして、この文化を、あなた自身の暮らしの中で育ててください

文化は、誰かが守るものではありません

文化は、一人ひとりが関わることで、生き続けます

黒谷和紙の物語は、800年前に始まりました

そして、その物語は、今日も続いています

次の一ページを書くのは、このGUIDEを手にしたあなたかもしれません

🇬🇧 Culture lives on into the future through its use
🇫🇷 C'est en étant mise en pratique que la culture se transmet à l'avenir

Epilogue

🎧 音声ガイド

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800年という時間の中で、黒谷和紙は何度も姿を変えながら受け継がれてきました

その物語は、一度読んだだけでは語り尽くすことはできません

季節が変われば、黒谷の景色も変わります

楮が芽吹く春

紙漉きが始まる冬

職人の手仕事も、その時々で異なる表情を見せてくれます

だから、このGUIDEは、これからも育ち続けます

黒谷を訪れるたびに

新しい和紙と出会うたびに

新しい人と語り合うたびに

このGUIDEは、新しい一ページを加えていく一冊でありたいと思っています

文化は、完成するものではありません

人が出会い、学び、使い、伝えることで、少しずつ育ち続けていきます

そして、このGUIDEもまた、その歩みとともに育ち続けます

また、黒谷で

また、新しい物語に出会う日まで

🇬🇧 Epilogue
🇫🇷 Épilogue

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KUROTANI WASHI GUIDE

文献・資料提供 黒谷和紙協同組合

Produced by DAZERO

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