ARTALYM 作品と暮らす

ARTALYM 作品と暮らす

Prologue  一通のメッセージから

Chapter1 この一枚から

Chapter2 この絵を描いた人

Chapter3 1枚の絵が、蜂蜜になる

Chapter4 作品と暮らすということ

Chapter5 ARTALYMという名前

Chapter6 小さなテーブルから

Prologue|一通のメッセージから

あの頃、私は次々と蜂蜜のラベルをつくっていました。

Yellow所属のミルカさんが描いた「アオゲラ」と「カンザシフウチョウ」。

そして、東京・八王子のさおりさんが描いたゼンタングルの作品からも、二つの蜂蜜ラベルが生まれました。

東京・八王子のsaoriさんの絵を使用した蜂蜜のラベル
東京・八王子のsaoriさんの絵を使用した蜂蜜のラベル

それぞれまったく違う作品が、小さな蜂蜜の瓶の上で、新しい表情を見せていく。

ひとつ完成すると、また次へ。

当時の私は、そんな勢いの中にいました。

作品を選ぶときに考えていたのは、とても単純なことでした。

「この絵は、この蜂蜜に合う。」

「この作品をラベルにしたら、きっと美しい。」

誰が描いたからではなく、まず作品を見て、感じる。

その感覚のままに、蜂蜜と作品を組み合わせていました。

そして、さおりさんのゼンタングルを使った蜂蜜をInstagramで紹介しました。

すると、その投稿をきっかけに、岡山から一通のメッセージが届きます。

「我が子のデザインでも作って頂くことができるんですか?」

メッセージを送ってくれたのは、ちゆねちゃんのお母さんでした。

その一言から、すぐに、お母さんとの具体的な話が始まりました。

作品を見せてもらい、どの作品を使うのか、どのように蜂蜜のラベルにするのか。

送られてきたのは、色も、形も、表情も異なる、たくさんの作品でした。

その中で、私の目が止まった一枚がありました。

深い緑。 厚く重ねられた絵の具。 画面いっぱいに残された、力強い動き。

私はその作品を、もっと近くで見てみたいと思いました。

そして、この一枚を蜂蜜のラベルにしたいと思いました。

その原画が、こちらです。

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ミルアート:ちゆねちゃんの作品「緑の大地」

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Chapter 1|この一枚から

最初に感じたのは、その力強さでした。

絵の具は厚く重なり、画面には大きな動きが残っています。

そして、私にはどこか迷いがないように見えました。

何度も考えながら形を整えていったというより、感じたものをそのまま画面に残したような勢い。

もちろん、それはこの絵を見た私自身が感じたことです。

深い緑を見ているうちに、私にはそれが「大地」のように見えてきました。

そこに花が咲き、ミツバチが飛んでくる。

その土地から蜜を集め、力強い蜂蜜が生まれていく。

そんな風景を、この一枚から想像しました。

だから私は、この絵を蜂蜜のラベルにしたいと思いました。

けれど、この作品が実際にどのように生まれたのか。

そのとき私は、まだ知りませんでした。

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Chapter 2|この絵を描いた人

この緑の原画を描いたのは、岡山県で活動する7歳のアーティスト、ちゆねちゃんです。

ちゆねちゃんがアート教室に通い始めたのは、3歳の春でした。

最初は人見知りや場所見知りもあり、教室に入って机の前に座れるようになるまで、約1年かかったそうです。

それでも先生は、毎週根気よく付き合ってくれました。

そして4歳の春、初めての「作品」が完成します。

そこから、ちゆねちゃんの表現は少しずつ広がっていきました。

主に使っているのは、水のりにアクリル絵の具を混ぜ、スティックに詰め替えたオリジナルの画材です。

「絵の具を塗る」というより、「色を流す」。

そんな感覚で作品をつくっていきます。

画材になるものも、絵の具だけではありません。

卵の殻、コーヒーカス、どんぐり、木の実。 オレンジやリンゴ、野菜。 海岸で拾った砂や貝殻。

生活の中にあるものを、お母さんと一緒に「これは画材になるかな」と探しながら、さまざまなものを作品に取り入れてきました。

富士山をつくったり、スライムで海をつくったり、水族館へ行った後には魚をつくったり。

毎週末のように通った渋川海岸で砂や貝殻を拾い、海や魚、水をモチーフにした作品も数多く生まれました。

そんなちゆねちゃんの制作を、そばで見守ってきたアート教室の先生がいます。

絵の具を制限なく絞り出すちゆねちゃんを見て、お母さんが止めようとしたとき、先生はこう言ったそうです。

「好きにさせてあげて、お母さんは口を出さないで」

自由に色を使うこと。 自由に素材を選ぶこと。 そして、自分の感覚のままにつくること。

現在のちゆねちゃんの表現には、そんな時間の積み重ねがあります。

そして、小学校へ入学する年の4月1日。

ちゆねちゃんは、一枚の絵を描きました。

それが、私が蜂蜜のラベルに選んだ、あの緑の原画です。

自由な発想、解放感で描くちゆねちゃん
自由な発想、解放感で描くちゆねちゃん

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Chapter 3|一枚の絵が、蜂蜜になる

この緑の原画が描かれたのは、小学校に入学する年の4月1日でした。

「小学生になって初めての作品になるね」

お母さんとそんな話をしながら、制作が始まりました。

この日、ちゆねちゃんが最初に手にしたのは、黒い油絵具でした。

それまで作品の一部に油絵具を使うことはありましたが、

水のり絵具では黒をつくったことがなかったため、真っ黒になったキャンバスを見て、

お母さんは驚いたそうです。

その後、ちゆねちゃんは別の色の油絵具をのせていきます。

いつものように制作途中の写真を撮ろうと、お母さんが携帯電話を取りに台所へ向かいました。

そして、戻ってくると——

ちゆねちゃんは、もう別のことをしていました。

「これは?」

お母さんが水のり絵具を見せると、

「できたよ、おわりなの!」

いつもなら何度も色を重ねていくちゆねちゃんが、この作品には、それ以上手を加えようとしませんでした。

制作途中の写真が残っていないことは、お母さんたちにとって、とても珍しいことだそうです。

こうして、これまでの透明感のある鮮やかな作品とは少し印象の違う、

一枚の緑の原画が生まれました。

それからしばらくして、私はお母さんに、

「緑色の作品はありませんか?」と尋ねました。

実はそのとき、お母さん自身も、この作品のことを忘れていたそうです。

いくつもの作品を見せてもらった中で、私の目が止まったのが、この一枚でした。

私がこの作品を選んだことを知ったお母さんは、

「なぜこれ???」

と驚いたそうです。

もっと鮮やかな作品がたくさんあるのに、なぜこの一枚なのだろう、と。

けれど、私にはこの絵が強く残りました。

そして、この作品を蜂蜜のラベルにしたいと思いました。

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今回の岬町のはちみつのラベルとして使わせていただきます
今回の岬町のはちみつのラベルとして使わせていただきます

その後、この原画を学校関係の方々に見てもらうと、

「龍が見える」

「かっこいい」

そんな、それまで想像していなかった感想も返ってきたそうです。

同じ一枚の絵を見ても、そこに見えるものは人によって違う。

そして、作品は誰かに見られることで、また違った表情を見せていく。

やがて、この緑の原画を使った蜂蜜のラベルが完成しました。

そのデザインをお母さんに送りました。

お母さんは、そのときのことをこう振り返っています。

「実際に商品ラベルが出来上がると、ちゆねの作品は本物の『商品』になっていました。」

そして、

「山本さんからラベルのデザインが送られてきた時、手が震えました。」

一枚の原画が、小さな蜂蜜の瓶の上で、新しい姿になった瞬間でした。

そして私自身も、この頃から考え始めました。

これを一度きりで終わらせず、ひとつの取り組みとして続けていくことはできないだろうか。

その思いが、少しずつ次の形へとつながっていきました。

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Chapter 4|作品と暮らすということ

なぜ、絵を蜂蜜のラベルにするのか。

その背景には、私が以前イタリアで暮らしていた頃に感じたことがあります。

イタリアでは、家の中に絵や写真、さまざまな作品が自然に置かれている光景をよく目にしました。

それは必ずしも、有名な作家の作品や高価な美術品というわけではありません。

壁に一枚の絵がある。

棚の上に小さな作品が置かれている。

作品が特別なものとして暮らしから切り離されるのではなく、家具や食器と同じ空間にあり、人と一緒に日々の時間を過ごしている。

私には、それがとても自然なことに見えました。

一方、日本で暮らしていると、「絵を買う」「作品を家に飾る」ということに、少しハードルを感じている人も多いのではないか、と感じることがあります。

だったら、もっと自然に作品が暮らしの中へ入っていく方法はないだろうか。

そこで考えた一つの方法が、蜂蜜でした。

蜂蜜なら、食卓に置かれる。

パンにつけたり、飲み物に入れたり、料理に使ったり、誰かに贈ったり。

暮らしの中で、何度も手に取るものです。

その小さな瓶に一枚の作品があれば、作品もまた、日常の中へ入っていくことができる。

そして、ラベルの絵に心を惹かれた人が、

「これは誰が描いたのだろう」

と、その作品の向こうにいる人を知るきっかけになるかもしれません。

私にとって蜂蜜は、原画の代わりではありません。

作品を商品にすることだけが目的でもありません。

作品と人の暮らしをつなぐ、ひとつの入口です。

ミルカさんの「アオゲラ」と「カンザシフウチョウ」。

さおりさんの二つのゼンタングル。

そして、ちゆねちゃんの緑の原画。

それぞれまったく違う作品が蜂蜜とつながっていく中で、私の中にひとつの思いが生まれてきました。

作品が、もっと自然に暮らしの中にあること。

作品をきっかけに、その向こうにいる人を知ること。

そして、それを一度きりではなく、続けていくこと。

そんな活動に、ひとつの名前をつけたいと思うようになりました。

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Chapter 5|ARTALYMという名前

この活動を続けていくために、私はひとつの名前を考えました。

ARTALYM(アータリム)。

ARTALYMは、

ART + PARALYM

から生まれた言葉です。

ARTALYMのロゴ
ARTALYMのロゴ

PARALYMには、パラリンピックへとつながる、人と人との違いを越えて、

ともに生きるという思いを重ねています。

ただ、ARTALYMが目指すものを、「平等」や「公平」という言葉だけで表したいとは思っていません。

人には、それぞれ違いがあります。

見えているものも、感じ方も、得意なことも、苦手なことも違う。

その違いをなくして、みんなを同じにすることが目的ではありません。

違いを持ったまま、同じ社会の中で暮らしていく。

ARTALYMでは、その「共存」ということを、アートを通して考えていきたいと思っています。

だからこそ、作品を見るときにも、まず一枚の作品として向き合いたい。

美しい。

面白い。

力強い。

家に置いてみたい。

そんな、ごく自然な感覚から始まっていいと思うのです。

そして、作品に惹かれたその先で、

「これを描いたのは、どんな人なのだろう」

と、その人を知っていく。

今回、ちゆねちゃんのお母さんから、こんな言葉を聞きました。

「凡人の私が非凡な才能を平凡にしてはいけない」

かつては、絵の具を惜しみなく使うちゆねちゃんを見て、

「使う分だけ」「もったいない」と止めようとしていたそうです。

けれど、アート教室の先生から、

「好きにさせてあげて、お母さんは口を出さないで」

と言われる中で、お母さん自身の見方も少しずつ変わっていきました。

今では、ちゆねちゃんが思いもよらない色をつくり出すたびに、ワクワクするのだといいます。

そしてそれは、子どもの頃、周囲の言う通りに「木は緑、水は青」と描いていた自分自身まで、

解放されるような感覚なのだそうです。

作品を見ることで、これまでとは違うものの見方に出会う。

その人の違いをなくすのではなく、その違いから、自分自身の見方が広がっていく。

そんな出会いもまた、共存のひとつの形なのかもしれません。

作品と暮らす。

そして、違いとともに暮らす。

ARTALYMという名前には、そんな思いを込めています。

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Chapter 6|小さなテーブルから

今回、ARTALYMを初めて皆さんに知っていただく場所として、

小さな展示の機会をいただきました。

場所は、蔦屋書店の中。

本や文化、人との新しい出会いが生まれるこの場所の一角に、本当に小さなテーブルがあります。

その小さなスペースを、ARTALYMの最初の一歩として使わせていただけることを、

とても嬉しく思っています。

大きな展覧会ではありません。

たくさんの作品が並んでいるわけでもありません。

けれど、この小さなテーブルの上には、ここまでお話ししてきたことが詰まっています。

一枚の原画があります。

その作品から生まれた蜂蜜があります。

そして、その向こうには、それを描いた人がいます。

まずは、目の前の作品を見てみてください。

何を感じるかに、決まった答えはありません。

私には「大地」のように見えたものが、ある人には「龍」に見えました。

きっと、皆さんにもそれぞれ違う何かが見えるのだと思います。

そして、もし作品に心を惹かれたら、その作品を描いた人のことも、

少し知ってみてください。

作品を知る。

人を知る。

そして、もう一度作品を見る。

最初に見たときとは、少し違って見えるかもしれません。

今回の展示が、ARTALYMという活動を知っていただく小さなきっかけになること。

そして、

「作品と暮らすって、どういうことだろう。」

「違いとともに暮らすって、どういうことだろう。」

そんなことを、それぞれの感覚で考えていただけたら嬉しく思います。

ARTALYMは、まだ始まったばかりです。

だからこそ、

この小さなテーブルから、始めます。

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ARTALYMをはじめ、土地、人、文化、そしてそこにある物語を辿る活動については、 TERRA TRACEでも紹介しています。

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